生産者と消費者の出会いを作り出す
ー 実際に入社してみて思う、ポケマルの価値って何ですか?
ポケマルが目指しているのは、食べ物の分散型流通システムを新たに作り出すことです。高度経済成長期までの日本では食糧難が度々起こっていて、食べものを安定的かつ安価に共有することが最重要事項でした。現代の効率化を重視した中央集権的なサプライチェーンの仕組みは、そのような課題意識の中で作られたものです。
現在は、新たな課題が次々に生まれています。食べ物の消費量と生産量が一致しないことで生まれるフードロスや、大規模生産に伴う食べ物の輸送距離(フードマイレージ)の伸びが環境に与える問題。一次産業を取り巻く経済状況の悪化と、それに伴う生産者人口の激減。消費地は画一化された工業的な食事であふれていて、食を楽しむシーンが減っています。
ポケマルでは、「生産者と消費者の分断」がこれらの課題を引き起こしている、という仮説を持っています。そして、課題解決のために、生産者と消費者が近い場所で直接繋がる分散的な仕組みを作ることを目指しているんです。近い、というのは地理的な面のみならず、精神的な近さも含みます。昔の関係性のあり方に回帰するわけではなく、テクノロジーを活用して無理なく繋がることを意図しています。
以前、ある農家さんから聞いた話ですが、白菜1個の利益がマイナス2円だった時があるそうです。6個140円でしか売れなくて、でも売るための箱代が150円かかってしまう、と。生産者と消費者との間に深い繋がりがあれば、事情を知った消費者が生産者を助けるために食べ物を買う、といったことが起き得ます。また、消費者から需要を直接聞いた上で生産をすれば、大量生産による価格の下落やフードロスが防げます。これは、今の中央集権の仕組みでは実現しにくいですね。
消費者にとっても、災害時や価格高騰時など食べ物が手に入らなくて困るという時に、「この人なら自分に食べ物を売ってくれる」という生産者がいることは、食糧の安全保障の観点で大事です。
何より、食べ物を通じて友人ができるという体験がとても貴重だと思います。生産者を、単なる食料の供給者ではなく、自分とは異なる生き様、文化、知識を持っている人として交流する。その出会いの演出をポケマルは担えると思っています。
課題先進国だからこその強み
ー ポケマルは「CHIVAS VENTURE 2019」世界大会に日本代表として出場していますが、ポケマルは世界にどのような影響を与えられるでしょうか?
今、世界中で、都市と地方の分断が問題を引き起こしています。都市と地方の関係、食べ物の流通のあり方を、世界的に見直すタイミングが来ているんです。
日本は課題先進国であり、東日本大震災による被災地は課題先進エリアと言えます。被災地での課題解決に端を発したポケットマルシェのモデルは、今後世界中に適用していけると確信しています。
このモデルをより多くの人に知っていただき、世界中の生産者と消費者が繋がるきっかけを作れたら、と思っています。
見えなかったものを見えるようにする
ー 今後、ポケマルでチャレンジしたいことを教えてください。
まず、世界に出ていきたいという思いがあります。ポケマルというプロジェクトを、世界の色んな場所にインストールするんです。並行して、日本のいい食材を世界へ提供するということをやりたいです。こうした活動を進めていくと、ポケマルが展開されている国同士は、食べ物が流通しやすくなる、という状態を作ることができます。消費者は、国というハードルを超え、数多くの文化、人、ストーリーから共感できるものを見つけて、食べ物を選ぶことができるようになるんです。これまで見えなかったものを見えるようにし、異質なものを繋げる。これは、非常に価値のある試みだと思います。
たとえば、ニュースで官僚の不祥事が取り上げられると、ついつい官僚批判をしたくなったりします。でも、官僚の友人ができて、苦労話などを聞いていると、滅多なことでは批判しなくなる。直接会話をし、共感することで、新たに見えてくる情報があるからです。テレビのニュースや本だけでは、情報のソースとして限界があると思います。
ポケマルは、食べ物の裏側にいる生産者のことを、直接繋がって知ってもらう機会を提供しています。次はそれを世界中に広げ、各国の文化を知るきっかけを作ることができればと思っています。
もう1つチャレンジしたいことは、ポケマルだけではなく世の中の色んな人達が、生産者と消費者を繋ぐことができるための仕組みづくりです。これを「誰でもポケマル」と呼んでいます。自分のおすすめの生産者を周りに紹介したり、ポケマルのようなECサイトを簡単に運営できたりする仕組みを考えています。
最終的には、生産者が経済的に安定できること、そして今以上にリスペクトされる存在になることを目指して、そのための土台作りを続けていきます。「一次産業をやってみたい」と思う人を、もっと増やせたらと考えています。
<完>