ポケットマルシェ(ポケマル)は、先月、寄附者と生産者がつながる国内初のふるさと納税サービス「ポケマルふるさと納税」を開始しました。ふるさと納税事業責任者の柳生に、どのようなサービスなのか、どのような背景・想いで立ち上げたのかについて、語ってもらいました。
▼ PROFILE ▼
柳生 宗範(Munenori Yagyu)
1996年、神奈川県藤沢市出身。旅行やボランティア活動で国内を見て回る中で、地方の過疎や産業の空洞化に危機感を覚える。新卒で旅行予約サイトの運営会社に入社、最年少でサイト企画の1部門責任者に。東京一極集中是正により貢献すべく、2020年7月に株式会社ポケットマルシェに入社。ふるさと納税事業の立ち上げを担う。
多様な生産者が参加でき、継続的なつながりを生むふるさと納税
──「ポケマルふるさと納税」は、どのようなサービスなのでしょうか?
「ポケマルふるさと納税」は、寄附者と生産者が直接つながれるふるさと納税サービスです。ECサイトである「ポケットマルシェ」と似た仕組みを用いることで、「ポケットマルシェ」上で生産者と直接やりとりをしながらお買い物をするのと同じことが、ふるさと納税でもできるようになりました。
──これまでのふるさと納税サービスとは、どのような違いがあるのでしょうか?
これまでのふるさと納税サービスでは、主に「自治体」が返礼品の出品・在庫管理・発送などを行っていましたが、ポケマルふるさと納税では主に「生産者」が行います。この部分を指して「国内初」と言っているのですが、この仕組みには、「多様な生産者が、返礼品の提供者としてふるさと納税に参加できる」「寄附者と地域との間に継続的なつながり(関係人口)を生み出せる」という利点があります。
まず、1つ目の「多様な生産者も参加できる」ことについてですが、ふるさと納税の食品には、1,700億円ほどの市場規模があります(2020年度)。しかし、この市場に参加できるのは一部の生産者に限られてしまっていました。
返礼品の出品・在庫管理・発送など、ふるさと納税に関わる膨大な業務を主に自治体が行っているため、ある程度の量を安定して販売できる大規模な生産者や加工業者が、返礼品の提供者としてどうしても優先される状況にあったのです。
そもそもふるさと納税は、任意の自治体に寄附を行うことで、自治体と返礼品を提供する地域の事業者にお金が回り、地域を応援できる制度です。その趣旨に照らせば、地域の事業者の中で恩恵を受けられる人が限られてしまっている状況は、あまり望ましくありません。
ポケマルふるさと納税では、自治体が行っていた返礼品の出品・在庫管理・発送などを、生産者自身が行います。これにより、生産量の少ない生産者や、鮮魚など供給が安定しにくい食材を扱う生産者も参加しやすくなります。
次に、2つ目の「寄附者と地域との間に継続的なつながり(関係人口)を生み出せる」ことについてですが、総務省は、ふるさと納税制度開始から10年が経過する2017年に、ふるさと納税のさらなる活用について、2つの視点を提示しています。「寄附金の使い途を明示し、その成果を知らせること」と、「寄附者と継続的なつながりを持ち、交流の輪を広げること」です。
寄附金の使い途と成果の明確化については、ガバメントクラウドファンディングという形で広まってきています。しかし、寄附者との継続的なつながりについては、ほとんど実現できていません。「寄附者 対 自治体」つまり「人 対 自治体」の場合、つながりはなかなか生まれにくい状況にあります。
ポケマルふるさと納税では、「寄附者 対 生産者」つまり「人 対 人」がやりとりする仕組みにすることで、生産者を通して寄附者と地域との間に継続的なつながりが生まれやすくなります。
ポケマルは「個と個をつなぐ」をミッションに掲げ、消費者と生産者、都市と地方が共に助け合う関係性にある社会を目指してきました。ポケマルふるさと納税は、寄附者と生産者という「個と個をつなぐ」ことで、「恩恵を受けられる人が限られている」「継続的なつながりが生まれにくい」というふるさと納税の課題を解決し、地域活性化に貢献していくサービスです。
──この仕組みは、寄附者にも利点があるのでしょうか?
そうですね。返礼品のラインナップが広がったり、返礼品を受け取るまでの日数も短くなったりします。自治体・生産者・寄附者それぞれに対して利点がある仕組みとなっています。(詳細は図を参照)
「社会の答えになる」ために、「できる方法を考える」
──ポケマルふるさと納税の立ち上げにあたり、どんな苦労がありましたか?
これまでのふるさと納税サービスは、「寄附者 対 自治体」を前提として設計されています。これをどのようにすれば「寄附者 対 生産者」を実現できるのか、という点が一番苦労しました。
なんとしても、寄附者と生産者が直接やりとりするふるさと納税をつくりたかったんです。ただ、制度上難しい側面がたくさんありました。そのような中で、どうにかして「できる方法」を考えました。その結果が、寄附額が自動的に計算される仕組みの構築や、ポイント制の導入につながっています。
これまでは自治体が出品していたため、寄附額の算定も自治体が行っていました。しかし、生産者が出品するにあたって、いちいち寄附額を計算するのは困難です。なので、寄附額が自動で計算される仕組みを構築し、生産者はECサイトへの出品と同様に、商品代のみを検討して出品できる環境をつくりました。
また、ポイント制の導入によって、ポケマルふるさと納税では寄附額1,000円ごとに300ポイントが自治体から寄附者に付与されます。寄附者はそのポイントを使用して、生産者の出品する食材を注文するというわけです。 ポイント付与と食材の注文は、1度の申し込みで同時に完了する仕組みなので、ユーザー体験としては、ECでのお買い物とほとんど変わりません。
ウェブの仕事は基本的に前例踏襲なので、先例をブラッシュアップすることを考えていきます。ですが、既存のふるさと納税にあったのは自治体がやりとりする仕組みだけで、理想とするモデルの先例が一切ありませんでした。その中で、どうすれば寄附者と生産者がやりとりできる仕組みをつくれるのか、ここを考え抜きました。このポケマルふるさと納税の仕組みは、特許も出願しています。
事業立ち上げに向けて、サービスを導入してもらうために各自治体に営業活動を行いましたが、なにしろ国内初のサービスなので、理解を得るのがなかなか難しかったです。自分たちがやろうとしていることには意味があると信じて、とにかく熱く語りながら全国をまわりました。
寄附額を大きく増やすという観点ではなく、「多様な事業者が恩恵を受けられるようにしたい」「寄附者と地域の間に継続的なつながりをつくりたい」という想いをもっている自治体に、共感していただいたと思っています。最終的に2021年9月末のリリース時点で、20自治体に参加していただきました。
──ポケマルの行動指針、社会の中に答えを探すのではなく「社会の答えになる」、できない理由ではなく「できる方法を考える」を、まさに体現していますね。
生産者個人の名前が売れれば、「生産者」を憧れの職業にしていける
ー柳生さんは2020年7月に入社されていますが、なぜポケマルで働きたいと思ったのでしょうか?
もともとは旅行業界にいました。国内旅行が好きで、観光地ではないところをまわっていました。その中で目についたのは、寂れていく景観や人がいない商店街など、地方の衰退でした。これはなんとかしたいな、という気持ちになりました。都会の経済は地方なしには成り立たないので、このまま地方が衰退していけば、日本の今後もありません。そういう意味でも、何とかする必要があると思いました。
ではどうするのか、と考えた時に、「地方でも稼ぐ手段を作ること」「地方の仕事もかっこいいと思ってもらうこと」が必要だと思いました。
一次産業が主軸である地方で稼げる手段を作るということは、生産者が稼げるようにするということです。稼ぐ方法として大規模化もありますが、それだけではないと思っています。
例えば、どんな高級レストランのシェフも、キャリアは見習いから始まります。見習いの時は給料も低いですし、独立しても、すぐに高級レストランのシェフとしてうまくやっていけるというわけではありません。シェフの料理をおいしいと思うお客さんが増えていき、その需要に伴って単価が上がっていくというプロセスがあります。
でも、一次産業では、どんなにおいしいものをつくってもなかなか単価が上がりません。なぜかといえば、消費者が指名買いする手段がないからです。そんな中で、ポケマルは「誰がつくっているか」を明確にして売っています。おいしいものをつくっていれば人が集まり、人が集まれば値段を上げても買う人がいるので、単価は上がる。ポケマルであれば、一次産業をこの構造に変えていけるのではないかと思いました。
また、ただ稼げるだけでは十分ではありません。地方でも一次産業でも稼いでいる方はたくさんいますが、かっこいい職業、憧れの職業というイメージはなかなか持たれにくいのではないかと思っています。料理人は、最初年収が低くてもやりたいという人があとを絶ちません。それは人気シェフや有名レストランなど、憧れの象徴があるからだと思います。飲食業界では、お店の名前や個人の名前が語られ、ファンがついていきます。
一次産業では、個人の名前がなかなか出ません。なので「この人みたいになりたい」と思うきっかけがなく、生産者を目指す人が出てきにくいのではないかと思います。ポケマルでは個人の名前が出るので、個人にファンがついて「かっこいい生産者」の象徴となる方がたくさん生まれることで、生産者を憧れの職業にしていける可能性があります。おいしい料理を食べたいときにレストランを検索するように、おいしい野菜や果物を食べたいときに生産者さんを検索することが当たり前になればいいとずっと考えてきた中で、それが実現できそうなポケマルに出会いました。
消費者が農産物を指名買いできるサービスは他にも色々ありますが、ポケマルは代表の高橋が「関係人口」を提唱して、「都市と地方をかきまぜる」と言い続けているところに特徴があります。僕は元々一次産業自体に強い関心を持っているというより、地方に関心があり、その主幹産業と言える一次産業にアプローチする必要があるという考え方をしています。なので、一次産業を入り口にしながら地方に焦点を当てていると感じたポケマルに入社を決めました。
──今後、「ポケマルふるさと納税」をどうしていきたいですか?
国内初のサービスをなんとかリリースできましたが、リリースしただけでは何も変わりません。サービス自体はまだまだ使いにくい部分もあるので、これから使いやすくしていきます。
また、多様な生産者が参加できるサービスではありますが、参加にあたってはまず、その生産者のいる自治体に参画してもらう必要があります。なので、さらに多くの自治体の方々にこのサービスについて知っていただき、もっともっとふるさと納税の恩恵が受けられる生産者を増やしていきたいと思っています。
・・・
■「ポケマルふるさと納税」の利用はこちらから
■「ポケマルふるさと納税」参加希望自治体のお問い合わせ先
https://forms.gle/sfncMaBYZizMP9ZY6
お問い合わせ後は、当社よりご連絡を差し上げます。