2021.8月 31

養老孟司氏と「持続可能な社会」を考える|対談イベント「世なおしするべ!」#1 開催レポート(後編)

ポケットマルシェ代表の高橋博之が、現代社会の抱える問題の本質に迫り、有識者の方々と熱く対談するイベント「世なおしするべ!」。問題への理解を深め、解決のための行動を参加者のみなさんと一緒に考える場として、2021年7月より開始しました。

 

第1回は解剖学者の養老孟司さんをお招きして、「持続可能な社会」について考えました。養老さんは、自然が排除された都市で頭ばかり使って働く人が多い現代社会を「脳化社会」と呼び、都市と地方で一定期間ずつ暮らす「逆参勤交代」を提言しています。そんな養老さんの「都市と地方」「人間と自然」に対する視点から見た「持続可能な社会」とはどのような社会であり、また、どのように目指していくことができるのでしょうか。

 

このブログでは、イベントの様子を前編・後編の2回にわたってご紹介します。後編では、質疑応答の内容をまとめました。

 

高橋と養老さんの対談内容を記した前編はこちらから。

 

養老孟司氏と「持続可能な社会」を考える|対談イベント「世なおしするべ!」#1 開催レポート(前編)


Q1. 人に任せすぎることで、人生すらも預けてしまうというお言葉があり、胸をつかれております。一方、今の日本人たちが自給自足の生活をするのかと言われると疑問が生じます。任せすぎてしまうことで弊害が起こる一方で、任せることが楽で効率的だから人は任せるのではないでしょうか。任せることが人にとって効用をもたらす中で、今後、何が人を「任せない」という選択に駆り立てるのでしょうか。

 

養老さん:

かなり複雑な問題なんですよ。一定の答えはなくて、人にもよるし状況にもよる。自足は自分の立場で考えるのが一番いいと思います。例えば、参勤交代をするとなったときに自分は何が困るか。私の場合は、女房と娘は田舎だと、文句を言います。それを具体的に片付けるしかない。そういう人たちも含めて、どの形ならみんなが自足しやすいか。

 

今の人の問題点は、あらかじめものを考えてそれに合ったようにしようとすることです。「ああすればこうなる」の考え方からときどき離れた方がいい。それは人間の持っている非常に大事な能力なんですけど、「ああすればこうなる」だけでやっていくとどうにもならない状況がでてきちゃう。

 

Q2. 米を作り始めて自然と人間は連続していると次第に感じ始めました。ただこの感覚はとても伝えにくいです。やはり望む者、違和感を感じたものそれぞれが、野外に飛び込み体験することが変化をもたらすのでしようか?

 

養老さん:

それはぜひ皆さんに考えてもらいたいですね。要するに、どういう状況においてあげたら、何を介してつながりが回復するのか。田畑、あるいは海川と自分がつながっている感覚は理屈じゃないんですよね。私は理屈で説明しましたけど、そうじゃなくて、感覚的で無意識の動きですね。

 

どうやったら自分がそういうつながりを回復できるかということは、それぞれの人に課された使命みたいなもので、それがわかればたぶん自足に近づく。

 

高橋:

僕の回復の仕方は、農家と漁師と知り合いになったことですね。養老先生のおっしゃる「あの田んぼはわしで、わしはあの田んぼだ」「あの海は俺で、俺はあの海だ」ってことを彼らは感覚的に知っていて、話を聞いていると伝わってくるんですよ。だから、とにかくいろんな人に、農家と漁師のところに飛び込んで欲しいんですよね。

 

養老さん:

今の人はこういうことを口で、情報を介して伝えられるとどこかで思っちゃう。でもそうはいかないんですよね。

 

8月15日になると戦争体験を後世に伝えようというのがありますが、そう言っている人は戦争体験をしていない人ですね。つまり、そういう体験が伝えられると思っている。そうじゃないんですよ。伝えるっていうのは映像と言葉とか、いわゆる情報化したものじゃなくて、そういうものにならない、無意識に効いてくるものですから。私も自分で敗戦の日のことを覚えていて、自分の人生に影響したと思うんですけど、これは理屈じゃない。

 

今の人は理性に頼ることを非常に重視するんですね。人が一生懸命やっていたことを、あとで説明できるって暗黙のうちに思っている。一生懸命やっていることほど他人には説明できない。だから僕はよく「なんで虫をやっているんですか」と聞かれるけど、そんなもん説明できるわけない。みなさんも恋愛してみればすぐわかるけど、「なんであんなのがいいんだ」って言われても、そんなのわかるわけない。そういう体験をすればするほど、それが人に伝わらないことはわかってくる。

 

 

Q3. 小学校6年生時に東日本大震災を経験したことがきっかけにもなり、漁業について研究しています。その中で自然に対して科学がいかに太刀打ちし難いものか感じていますが、コロナ禍や災害、地球環境の変化に対して、現在の科学主義的な社会は変容していくのでしょうか。または、科学主義が強まることにより統計には現れないノイズがどんどん排除されていくのでしょうか。

 

養老さん:

たしかに科学はある意味でいきすぎたんですね。僕は科学者じゃないと自分では思っています。科学的な考え方で自分の人生をやっていこうとしたら、そんなことはできないと気がついたんですね。頭で考えてモデルを作って最善の手を打つ、あるいは自分が考えていることを正しいと証明するみたいな、そういう風な生き方はできない。でも江戸時代まで戻ると、学問は自分の生き方そのものだったんですね。科学的に自分が生きることができるかどうかを考えてみる。私はそんなことできるわけないと思ったから、自分は科学者じゃないと思っています。

 

Q4. 自足するとはある程度の幸福な状態であると思われますが、その幸福度が日本は低いです。特に子どもたちや若者たちが自分の幸福とは何か、何をしていれば幸せなのかを考える、掴むきっかけはないものでしょうか。

 

養老さん:

若い人はいろんな体験をするべきでしょうね。私自身も自立するまでずいぶん時間がかかりました。自立っていうのは、自分の生き方を自分で決めるっていうことですね。自分の考え方も自分で考える。その時に必要なのは訓練、鍛錬、修練ですね。いろんなことをやってみて、自分で身につけていくってことです。

 

高橋:

とにかくやってみるってことですね、なんでも。外に出て、目で見て、耳で聞いて、手で触って、感じて、を繰り返していく、と。消費社会から見ると、農漁業の自らおさめている人たちの暮らしは実に異質な世界ですけど、そこに飛び込んでみることも一つのきっかけを掴むことになりますかね。

 

養老さん:

非常にいいんじゃないでしょうか。

 

高橋:

僕らは、日本航空さんと一緒に、地方の農漁業の現場に大学生を送り込んで現場のリアルを体験してもらう「青空留学」というものをはじめることにしました。これを広げていきたいと思っています。

 

 

Q5. 養老先生は、今後起こることが予測されている急激な人口減少をどう捉えていらっしゃいますか。コロナ禍を通じた社会の様相の変化と同じく、見方によっては良い面もあるといえるのでしょうか。また、人口減少が引き起こす低成長の時代には、日本に住むそれぞれがリスクを引き受けて、先生のおっしゃる自分に合う生活をしていくようになると思うのですが、そのような美味しくない(かもしれない)話を皆が引き受けることができるようになると考えられますか?

 

養老さん:

当然そうならざるを得ないでしょうね。現にそうなってきている途中だと思うんですよ。少子化はあきらかに異常なところまでいっちゃっていますね。東京都の人口再生産率が1.2とかの数字で、夫婦二人で子どもが平均1.2っていうのは、どう考えてもまともな生物の集団じゃない。いずれ縮小してなくなることがわかっちゃう。

 

それから若者の自殺が多いですね。これも非常にまずい。おそらく子どもの時にあまり幸せじゃないんじゃないかという気がする。僕は終戦の時のことをしつこく覚えているって言いましたけど、子どもの時に入ったそういうものってなかなか抜けないんですよ。だから、子どもの時に本当に幸せな思いをすれば、子どもの時に自足していれば、死のうなんて思わないんじゃないかって気がする。だって、死のうと思うってことはこれ以上いいことがないってどこかで思っているわけでしょ。子どもの時に幸せな思いをした人が、そういう風に思うかというと、僕は思わない可能性の方が高いんじゃないかと。結局子どもに幸せな時間を与えられていないって思いますね。

 

もう一つ、人生100年とか言っていますけど、今の人が一番忘れるのは、「子供時代も100年のうち」っていうことです。だから、周りが一生懸命協力し合って子どもを安全安心にするよりは、子どもを幸せにすることを本当に考えればいい。子供の要求なんて高が知れているので、満たせないわけじゃないですよね。

 

子どもを幸せにしようというのが、全員の合意になっていない。必ず将来を計算しちゃう。自分の利害で子どもを見ちゃう。でも、子どもを幸せにしてやることは、親にとってはなんでもないことだと思うんです。1000万円のスポーツカーを買ってくれなんて言ってませんから。子どもを自足できるような状況においてやるのは親の責務ですね。それはお金があるっていうことと何の関係もないです。お金が人の幸せに関係ないってことは、子どもを見ていればよくわかる。

 

・・・

 

さて、今回の対談は「持続可能な社会」をテーマにお送りしましたが、皆さんの中で考えは深まったでしょうか。

 

ポケットマルシェでは、「持続可能な社会」の実現が叫ばれる今、当社の考える「ありたい社会」とそこにいたる道筋について詳述する「サステナビリティページ」を、コーポレートサイト上で公開しました。養老さんのお話とも重なり合う部分があると思いますので、こちらもぜひ一度ご覧ください。

 

対談の様子は、ポケットマルシェ公式YouTubeにて動画(フル版&ダイジェスト版)でも公開しています。ブログに書ききれなかった話もありますので、ぜひご覧ください。

 

 

対談イベント「世なおしするべ!」は今後、毎月異なるテーマでさまざまなゲストをお呼びして開催予定です。次回は予防医学者の石川善樹さんをお招きして、「ウェルビーイング」をテーマに対談します。詳細・お申し込みはこちらから。

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