2021.9月 28

石川善樹氏と「ウェルビーイング」を考える|対談イベント「世なおしするべ!」#2 開催レポート(後編)

ポケットマルシェ代表の高橋博之が、現代社会の抱える問題の本質に迫り、有識者の方々と熱く対談するイベント「世なおしするべ!」。第2回は予防医学研究者の石川善樹さんをお招きして、「ウェルビーイング」について考えました。

 

このブログでは、イベントの様子を前編・後編の2回にわたってご紹介します。後編では、質疑応答の内容をまとめました。

 

高橋と石川さんの対談内容を記した前編はこちらから。

 

石川善樹氏と「ウェルビーイング」を考える|対談イベント「世なおしするべ!」#2 開催レポート(前編)


Q1. 都会と田舎ではウェルビーイングについて捉え方が違うのではないでしょうか?同じ土俵では話ができないように思います。

 

石川さん:

お互いに移動するしかないと思います。都会の人は田舎に行き、田舎の人は都会に行き、行き来することで、両者の間には違いがあるんじゃなくて共通項があると発見していくんだと思います。これを制度としてやっていたのが江戸時代の参勤交代です。日本は鎖国していたにもかかわらず、世界から取り残されずにイノベーションし続けたのは、日本国内では動きまくっていて、様々な交流が移動の過程でも生まれていたからだと思います。

 

高橋:

異質な都市と地方が出会うことで共通項を見出していくというのは、具体的にはどういうことですか?

 

石川さん:

共通項というのは、「あんたのところも小学生の息子さんがいるのか」とかそういうことです。都会か田舎かではなくて、人間としてみたらお互い弱い存在だし、寄り添わないと生きていけないよねということを見出すことだと思います。

 

Q2. 食を通じたウェルビーイングを広げるサービスをなんでも作れるとしたらどんなサービスを作りたいですか?

 

石川さん:

男性がもっと料理するようなサービスをつくってみたいですかね。どうしてかというと、世界各国でどのくらい料理をしているかという調査をしたんです。そうしたら、一つの例外もなく、全ての国で男性より女性の方が料理していることがわかりました。ただ、男女での格差の程度には差があって、料理頻度の男女格差が小さければ小さいほどその社会はウェルビーイング度が高いんです。日本は料理頻度の男女格差が大きいので、それを縮めるサービスはぜひつくってみたいです。

 

高橋:

耳が痛いな(笑)

 

石川さん:

男性が料理すると、料理した男性がウェルビーイングになれるし、女性の料理の負担が減ります。女性のウェルビーイングに最も大事な要因は、つながりもそうですが、自分の時間を持てるかということです。これは男性以上にそうです。日本の場合、自分の時間がどれだけあるかは世帯収入によりません。女性は家族や仕事のために、自分を一番後回しにしてしまいがちで、自分の時間は睡眠時間を削って取られる方が多いです。女性が自分の時間を持てるようになるために、料理に限らず男性ができることはあると思います。

 

Q2. リジェネラティブ農業が世界的に注目を浴びてきている中で、比較的大規模化していない日本の農業は相性が良いと思います。目下の農業人口の減少を考えた際に、日本の農の未来について、また、ウェルビーイングとの関係性について考えをお聞かせください。

 

石川さん:

農業をする際に、環境を傷つけないだけではなくて、農業をすることでさらに環境をよくしていくというのがリジェネラティブ農業ですよね。土を耕さない不耕起栽培や、単一作物ではなく、いろんなものを植えながら土壌環境をよくしていくという。それが日本だとやりやすいのは確かにそう思いますね。

 

高橋:

僕は条件付きというか。例えば、日本の有機農業の市場が頭打ちしてヨーロッパほど広がらない理由の一つは、消費者の無理解にあると思います。慣行農業か有機農業かの裂け目よりも、消費者と生産者の裂け目のほうが明らかに大きいので、まずそこを埋めて、食べものをつくる世界に対する理解を広めないといけないと思います。手間をかけてつくったものが、手間をかけただけの相応の値段で売れればそうした農業をやる人も増えると思うのですが、売れないから、「家族を食べさせるために、なるべく手間をかけない」となってしまう。ポイントは消費者とのつながり。そういう農業をする生産者を、どのように消費者が支えるかに尽きます。

 

石川さん:

「土のウェルビーイング」がまずはスタートポイントだろうと思います。これをやるのに一番いいのは小学校などの家庭科です。最近の若い男性が家事をするのは、家庭科の影響もあるようです。僕らが子どもの頃は、男は技術、女は家庭科でしたが、今は男女も両方やります。義務教育ってすごいんだなって思います。

 

昔の家庭科は裁縫や料理でしたが、今SDGsなどを教えているのは家庭科です。その家庭科で土の大事さや、維持するのにどのくらいのコストがかかるかなどを学ぶと、手間をかけて土のウェルビーイングを大事にしている生産者さんに対して尊敬が生まれたり、それがいかに価値あるものかが理解できると思います。時間はかかりますが、世代丸ごと意見を変えようと思うと、教育からになると思います。だから、全国の家庭科の先生にはすごく期待しているんですよ。

 

高橋:

「エディブルスクールヤード」という、学校の校庭を畑にして種まきから収穫まで1年のサイクルを学ぶ活動がありますが、そういう体験をした人の中から、まもる側にまわる人がでてくるのではないかということですね。

 

Q3. 海外では「生きがい」という日本語がそのまま紹介されるなど、日本はウェルビーイング先進国のように捉えられているような印象もありますが、客観的なデータも含めた場合、日本のウェルビーイングは世界的にどうなのでしょうか?

 

石川さん:

日本は、概念としては先進国ですが、ウェルビーイング実感で見るとそこまでではないのが現状です。このグラフはG7諸国の主観的ウェルビーイング度を見たものですが、日本はずっと最下位です。ドイツはメルケル首相が就任してからトップに躍り出ました。コロナ禍で国民のウェルビーイング実感を劇的にあげたのはドイツだけです。

 

高橋:

メルケル首相は何をしたんでしょう?

 

石川さん:

メッセージが、希望溢れるものだったと思います。私たちは何のために日々生きているのかを、多くのドイツ国民が見つめ直したんだと思います。生きがいという概念が海外で流行っているのは、海外の人の方が生きがいを考えているからかもしれないですね。

 

高橋:

メルケル首相がコロナ禍で「芸術は贅沢品ではない。人間が生きていくために必要なものだ」と言ったのは、しびれましたね。

 

石川さん:

そういうことの積み重ねなんだと思います。

 

Q4. ウェルビーイングや幸福という言葉にどこか怪しげな印象を受ける方もいると思うのですが、どうすればポジティブにこのテーマをみんなで考えていけるのでしょうか。

 

高橋:

僕は15年前、岩手県議会議員の時代に、県の総合計画の中心に県民総幸福量を入れようという話をしたら、「なに牧歌的なこと言っているんだ」とやじられました。講演で、「今までの人生で幸せについて家族や友人と議論したことある人」と聞いても、1割ほどしかいません。なんで日本人は幸福の議論が苦手なんですかね。

 

石川さん:

岩手県は幸福白書出していますよね。

 

高橋:

僕の置き土産です(笑)

 

石川さん:

基礎自治体も100近い市区町村が幸せを議論しています。「牧歌的」「怪しい」というのはもう過去の話です。

 

高橋:

変わってきているんですね。

 

石川さん:

中央政府がウェルビーイングと言っていますから。サステナビリティも昔は革新的なことでしたが、今は変わったように、ウェルビーイングも変わったと思った方が良いです。

 

高橋:

僕が18年前に街頭演説で語ったのは、今思えばサステナビリティとウェルビーイングでしたが、伝わる人は明らかに増えたと感じます。

 

石川さん:

企業もそうで、トヨタが2020年の11月に幸せの量産という新ミッションを発表したように、ウェルビーイングを中心的な経営課題として取り組むという企業が次々と出てきています。時代は高橋さんに追いついています(笑)

 

・・・

 

さて、今回の対談は「ウェルビーイング」をテーマにお送りしましたが、皆さんの中で考えは深まったでしょうか。

 

対談の様子は、ポケットマルシェ公式YouTubeにて動画でも公開中です。ブログに書ききれなかった話もありますので、ぜひご覧ください。

 

 

ポケットマルシェでは、「持続可能な社会」の実現が叫ばれる今、私たちの考える「ありたい社会」とそこにいたる道筋について綴った「サステナビリティページ」を、コーポレートサイト上で公開しました。石川さんのお話とも重なり合う部分があると思いますので、こちらもぜひ一度ご覧ください。

 

SUSTAINABILITY

 

対談イベント「世なおしするべ!」は今後、毎月異なるテーマでさまざまなゲストをお呼びして開催予定です。第3回は詳細が決まり次第、ポケットマルシェ公式SNSやPeatixにて告知します。

ポケットマルシェツイッター
ポケットマルシェフェイスブック
ポケットマルシェライン