ポケットマルシェ代表の高橋博之が、現代社会の抱える問題の本質に迫り、有識者の方々と熱く対談するイベント「世なおしするべ!」。第3回は独立研究者、著作家、パブリックスピーカーの山口周さんをお招きして、「持続可能な社会」について考えました。
このブログでは、イベントの様子を前編・後編の2回にわたってご紹介します。後編では、質疑応答の内容をまとめました。
高橋と山口さんの対談内容を記した前編はこちらから。
Q1. 山口さんのおっしゃる「問題」の定義をもう少し詳しく教えていただけますでしょうか。SDGsなど解決すべき問題はたくさんあると思いますが、社会の問題ではなく、個人の問題のことを指しているのでしょうか?
山口さん:
問題はなくなっているわけではなく、希少化しているということを僕は言っています。残っている問題は非常に解決が難しい問題で、まさにSDGsの問題や自殺、児童虐待などです。市場原理の枠組みの中で解ける問題はことごとく解かれていて、市場原理の中で解けないものが残っているという意味での希少化です。
市場原理の中で解けない問題を市場原理の中で解けるようにするのがイノベーションだと思っています。例えば、リクルートの山口文洋さんが始めて大成功した「スタディサプリ」という事業があります。
文洋さんがこの事業を始めたのは、母子家庭のお子さんが受験を諦めなくちゃいけない状況を聞いて、非常に驚いたからだそうです。自分の周りにはそれほど経済的に困窮している人はいないけれど、調べてみると日本には大きな教育格差があることを知って、これはなんとかしなくちゃいけないと。
問題を抱えている人が少なくなればなるほど、その問題は見つけられにくくなります。仲間と付き合っているだけだと日本はすごくいい国のように思うかもしれませんが、見えないところに問題を抱えた人がいるわけです。
事業を始めてから、同じ立場のお母さんからたくさん手紙が来たそうです。「大学に行かせるなんて無理だと思っていたけれど、これで良質な授業が聞けました」と。教育格差は経済格差でもありますが、地域格差でもあります。地方でいい教育を受けられなかった人や、離島から何時間もかけて塾に行っていた人が、家で授業を受けられるようになったんです。
教育格差は市場原理の外側にあった問題ですが、テクノロジーの力で内側で解き、経済価値を生んでいます。市場原理の外側にある問題は、解けないのではなく、たくさんの知恵と工夫が必要です。あとは勇気もですね。
Q2. 「日本人は1番が好き」というお話がありましたが、権威主義的なマインドセットからのアップデートを行うには何が必要でしょうか?
山口さん:
これはなかなか難しいですね。まず、権威主義は儒教の影響です。儒教は道徳をまもれば世の中はうまくまわるという宗教です。道徳で大事なものは「忠」と「孝」です。「忠」は偉い人に対して従いなさい、「孝」はお父さんとお母さんに従いなさいということです。
民族の歴史に根ざしているので、アップデートは原理的に難しいと思います。ただ、この価値観を牽制する、リバランスさせることは、リベラルアーツによって可能だと思っています。
権威についてはジョン・ロックの思想が有名です。ジョン・ロックは「私はあなたの意見は大嫌いだけど、あなたが意見をする権利は全力でまもる」と言った人です。これは教養ある人の態度だと思います。
「権力におもねなさい、そうすればうまくいく」という価値観を完全になくすことは難しいので、批判的にチェックする学問を学ぶことが必要です。
高橋:
「積極的不登校」という言葉もありますが、いま不登校の子が増えていますよね。僕の中学校では坊主にしなければいけなかったのですが、なんでですかと聞くと「決まってんだから従え」と言われました。そうして前提を疑うことの力を奪われ、先生が言っているからそうだ、みんなが学校に行くから行く、みんなが就活をするからする、というように自分の人生の舵を自分で握らなくなっていく。そんな中、学校に行かないと自分の意思を示す不登校の子たちは、未来の日本を変える力になりうると思っています。
山口さん:
そうですね、不登校の子こそ期待できると思います。つい一週間前に大親友から子どもが不登校になったと相談されたのですが、僕は彼に「誰もが行かなくちゃいけないと言っている場所に、私は行きたくないから行かないと言える勇気を讃えてあげなよ」という話をしました。友人はすごく勇気づけられたと言っていましたね。
Q3. 山口さんが、今日おっしゃったような考え方になったのは、いつからですか?コンサル時代から今日お話されたような考え方をお持ちだったのか、そのような考え方へと変化したきっかけがあったのか知りたいです。また、葉山に移られてから、考え方の変化や思考の深まりはありましたか?
山口さん:
ずっと続いている部分と、途中から変わった部分があります。
僕は子どもの頃から貧困ってなぜ起こるんだろう、切ないなと思っていたんですよ。僕は恵まれた家で育ったのですが、不公平な世の中ですごく苦しい状況にある人に対して、子どもながらに心を痛めていました。一部の人が大金持ちになるよりも、みんなが普通に暮らせる状況の方がいいんじゃないかなと思っていました。
一方で、知的好奇心やゲームとしてのおもしろさへの興味から、資本主義のど真ん中とも言える電通やコンサルティング会社へ行きました。物質的に派手な暮らしへの憧れを持った時期もあったのですが、正直なところ、すぐに飽きました。
だから、若い優秀な子たちが手っ取り早くお金持ちになりたくて外資系のコンサルに行くのは、気持ちとしてはわかります。でも、それに対して虚しいよと言っても仕方がないので、一回やってごらん、と思っています。早くやって早く飽きて、これじゃないと思えば、違う領域で花開きますから。
僕の場合は2年くらいで飽きました。精神的に落ち込む時期が続いて葉山に移ってきましたが、移ってきて本当によかったと思っています。
移住当時はコンサルティング会社にいて、土日も家で仕事をしていました。東京にいた頃から、子どものイベントや地域のことは全部奥さん任せで、頼まれた時もイライラしながらいい加減にやっていましたね。
葉山に来た時に、小学校3年生の子どもがヨットを始めました。ヨットは危険なスポーツなので親のアテンドが必要で、朝8時から夕方まで拘束されることになってしまいました。最初は嫌だと思っていたんですよね。でも、最初は怖がっていた子どもたちがどんどん上手になっていく1年間の成長の過程を見る中で、これは人間が変わる体験だなと思うようになりました。
「時間がもったいないとか何言っちゃってたわけ、俺」って思いましたね。仕事なんかあとでいくらでもやればいい。でも、小学校3年生の今このときは、何十億年ある宇宙の歴史の中でたった1年しかないんです。そのかけがえのない1年を見られたことが本当によかったなと。そこから価値観が変わってしまいましたね。
人生におけるプライオリティの付け方が変わりましたね。あの路線で行っていたら絶対に幸せになれないという鍵を捨てて、幸せになるための正しい鍵を手にした感覚があります。
Q4. 「Well Being」は「持続する幸せ」と訳されていますが、「幸せ」を定義すること自体、日本人が苦手としている気がします。「お金があれば」「学力があれば」という、幸せのようなもの、目先のニンジンに向かうのは得意な感じがしますが。「Well Being」を山口さんでしたらどう訳されますか?
山口さん:
言葉の定義は難しいですが、「静かに満たされた状態」っていうイメージがあるんです。湖面のように波が立っていない、そういう心の状態になれたらいいなと思っています。
でもそれはなかなか難しくて、同級生が自分より活躍しているとか、外乱が入るんですよね。目標を見つけて追いかけるときに心が乱れる感覚は大事ですが、心を乱される度に反応して色々やってしまうと、結局ろくなことにならないし自分もハッピーになりません。
湖面のような、かつ、雲の間から光もさしているような状態でい続けられることが、僕にとってのウェルビーイングですね。
Q5. 山口周さんから見て高橋博之さんはどんな人に映っていますか?
山口さん:
僕は「ワガママのススメ」ということを言っています。ヘルマンヘッセというノーベル文学賞をとった文学者が、ワガママっていう美徳を社会に回復しないと世の中はおかしなことになると言っていて、本当にその通りだなと思っています。
ワガママのレベルはいろいろありますが、例えば「学校に行きたくない」など、心の状態を自分で感じ取れて、その上でこうしたいと言える人が増えてくると、世の中はもっとよくなるだろうと思っています。高橋さんは私に言わせるといい意味でワガママな人ですね(笑)
高橋:
褒め言葉だと思って受け取ります(笑)
山口さん:
褒め言葉ですよ(笑)イエス・キリストやガンジーだってワガママです。歴史上の偉人はみんなワガママですよね。
アーツ&サイエンスといいますか。事業を作るにはそれなりの手練手管やプレゼンテーションのスキル、リーダーシップに関する知見などが必要ですが、それはサイエンスの話です。ハートの部分が前に出てこないと、いくらスキルがあっても世の中にとって前に進む力にならないと思います。
高橋:
僕は東京の一極集中や地方の過疎の問題は、単純に不自然だし美しくないと思うんです。そう感じながら主観で突っ込んでいって、そこに意味を立ち上げるのが、事業を作る人の仕事じゃないのかなと思っています。
山口さん:
ヨーゼフ・ボイスという現代アーティストが「社会彫刻」ということを言いました。みんな「アーティストは作品を作る人で、普通の人はアーティストじゃない」と思っているかもしれないけれど、そうじゃない。あなたたちの事業が世の中っていう作品を作るアーティスト活動なんだから、どんな社会がいいのか、どんな暮らしがいいのかをちゃんと考えて、仕事に携わってくれと。
アーティストはだいたいワガママなんですよね。高橋さんは、ワガママな社会彫刻家かなと思います(笑)
高橋:
これからは肩書きを社会彫刻家にします(笑)
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さて、今回の対談は「持続可能な社会」をテーマにお送りしましたが、皆さんの中で考えは深まったでしょうか。
対談の様子は、ポケットマルシェ公式YouTubeにて動画でも公開しています。ブログに書ききれなかった話もありますので、ぜひご覧ください。
ポケットマルシェでは、「持続可能な社会」の実現が叫ばれる今、私たちの考える「ありたい社会」とそこにいたる道筋について綴った「サステナビリティページ」を、コーポレートサイト上で公開しました。山口さんのお話とも重なり合う部分があると思いますので、こちらもぜひ一度ご覧ください。